太陽熱放射モデルは熱放射モデルとの組み合わせによって機能し、透明媒体を介した放射伝熱をサポートし、他の物体に対する影の効果をシミュレートします。
[太陽熱放射]ダイアログでは、緯度および経度の入力に加え、特定の地理的位置の指定が可能となっています。日付、時間、コンパス、および天頂に対する物体の相対方向も指定できます。
前セクションで示したレポートと同様な放射エネルギーバランスの完全なレポートが解析中および解析後に提供されます。
物体の太陽熱放射を厳密に計算するためには、環境を表現した大型のボリュームで対象の物体を完全に囲む必要があります。地面を表現したボリュームをモデルに含めることも可能であるが、必要ではありません。2つの領域(環境および地面)の目的は、物体とその周囲の間で反射および放射される放射伝熱の影響を厳密にシミュレートすることです。太陽熱放射モデル内のこれら2個の要素により、地面に対する、および地面からの間接的な太陽からの熱流束、ならびに空への熱放射エネルギー損失および/または受熱の厳密なシミュレーションが可能となります。
地面ボリュームは厚さがおよそ 1m でなければならない。厚さは数日間にわたる毎日の加熱を検討する場合にのみ重要です。そのようなケースでは、地面の熱的慣性の影響を計算する必要があります。地面部品は、検討対象の部品のおよそ 20 倍の幅が必要である。
環境ボリュームの形状は重要ではなく、半球または立方体が最も便利な選択肢です。環境ボリュームは、解析モデル内の物体の高さの少なくとも 10 倍以上まで延長するべきである。さらに小さな環境を使用することも可能ですが、自然対流を解析する場合は、小さなボリュームが浮力に起因する流れに影響し、その流れを複雑なものにする可能性があります。また、毎日の太陽熱放射を解析する場合は、物体に近すぎる冷たい空の温度が熱伝導により物体を人工的に冷却することになります。
太陽熱放射解析用には3次元ジオメトリのみがサポートされている点に注意してください。これは、太陽の運動が高度および東西方向(アジマス角)の関数であることによります。太陽熱流束が 3 次元空間の関数であるため、Autodesk Simulation CFD では、このエネルギーを 2 次元モデルにおける等価エネルギー荷重に変換しません。例えば、Y軸方向で軸対称なモデルに対して、太陽熱が存在するのは、その物体の1つの側面のみです。太陽熱放射はその本質から非対称であるため、このことはY軸周りの対称性条件と矛盾します。
太陽熱放射モデルにより物体によって生じる影が計算されるため、解析モデル内における物体の相対位置は重要です。ある物体が別の物体の太陽熱放射を(部分的または完全に)遮る場合、遮られた物体は影に覆われます。しかしながら、このような物体も、依然として空、地面および周囲の物体からの間接放射熱流束を受け続けます。
温度境界条件および放射率は、地面と空の両方に指定する必要があります。
地面温度は、地球上の位置に依存するため、地面ボリュームの外部サーフェス上で指定する必要があります。地面の放射率は、地面材料のプロパティとして指定する必要があります。この値は材料の種類により異なります。たとえば、ガラスのサーフェスは約 0.3 の放射率となりますが、アスファルトでは約 0.8 の放射率となります。空港のアスファルト舗装などの白いサーフェスは反射率が高く、非常に小さな放射率となる傾向にあります。
空の放射温度をドームの外側サーフェスに適用します。通常、この温度の範囲は狭く、摂氏約 0 ~ 30 度の範囲です。これは、空気の温度ではない点に注意してください。昼間の空の温度はほぼ環境温度と同じです。しかし、夜の空の温度は約0℃に低下します。温暖な気候で雲が厚い夜には、空の温度がこの値よりも高い場合があります。寒冷な気候で晴れた夜には、空の温度は-15℃まで下がる可能性がある。
雲が覆っている量および周辺光の量は、空から反射されて地球に戻る熱放射エネルギーの量に影響を及ぼします(アルベド)。空気に対して指定した放射率を使用して、空の放射率をコントロールします(これに基づいて反射率もコントロールします)。放射率により反射されるエネルギーの量がコントロールされる (反射率 = 1 -放射率)。
毎日の太陽熱放射を調査するには、空の温度を非定常境界条件として指定し、(環境ボリュームの外部サーフェスへ自動的に指定される)空気の放射率を温度の関数として指定します。昼間、空の温度が高いことは放射率が低いことに相当します。夜間、空の温度が低いことは放射率が高いことに相当します。
太陽熱放射解析に窓などの透明なオブジェクトを組み込むことができます。材料エディタで、透過率のプロパティを指定します。すべての部品が太陽熱放射解析における内部部品となるため、太陽熱放射モデル内では、放射熱透過境界条件を使用しないでください。この境界条件はモデルの外面上にある物体に対して外部温度を設定するため、太陽熱放射解析における内部部品に対しては不適切です。太陽熱負荷が透明なオブジェクトを通じて、地面または床の "ホット スポット" を作成することはありません。代わりに、エネルギーが透過率プロパティによって定義されているオブジェクトを通り、反対側のサーフェスから均等に放出されます。
太陽熱放射解析を実行する方法には、定常と非定常の 2 つがあります。定常状態として実行する場合、[太陽熱放射]ダイアログで指定した時間は、計算を通じて変化しません。この方法は、日中の暑さの中で物体にかかる「最悪のケース」の太陽熱放射を計算するのに理想的です。また、この方法は太陽熱放射の季節変動を算出するのにも役立ちます。
長時間(一日の中でまたは複数日)にわたる太陽熱放射の変動を調査するには、太陽熱放射モデルを非定常解析として実行しなければなりません。[太陽熱放射]ダイアログで指定した時間および日付は、シミュレーションの開始時のものです。長期間(例えば数日間)にわたって毎日の太陽熱放射を解析する場合、一日を100時間ステップ数に分割すると好都合であることがわかっています。これは時間刻み幅にすると864秒です。
浮力の影響を調査する場合には、大幅に小さな時間ステップ数が必要となります。
一日の太陽熱放射を実行する場合、昼と夜に適切な値が使用されるよう空の温度を時間と共に変化させることが重要であると考えられます。同様に、周辺光および雲の量による反射の影響を厳密に表現するため、空の放射率を温度依存性として定義するべきです。
太陽熱放射の影響についての最も重要な洞察を提供する2つの結果が、温度および太陽熱流束です。太陽熱流束は太陽熱用途では自動的に有効となり、グローバルスカラー結果リストに含められます。
太陽熱放射解析を実行した場合、放射エネルギーバランスの完全なレポートは、サマリーファイルの中でも提供されます。以下はレポートのサンプルです。特定の項目の意味に関するコメントは、線の下に書かれ、前に「>>>>」記号が付けられています。
Simulation Time 1.728000e+003 seconds, year = 2006, month = 2, day = 1 hour = 12 minute = 25 second = 5
L2 Norm of residual before solve = 1.06209e-003
Radiosity Solution has converged
Iter=10 ResNorm = 6.36236E-014
CPU time to solve radiosity matrix = 4
Radiation heat balance = 4.1933e-010/ 86.259 = 4.8613e-010%
部品ID別の輻射熱荷重:
ID |
輻射 熱負荷 (ワット) |
面積 (mm^2) |
サーフェス 温度 (K) |
放射率 | 透過率 |
1 | 0.1875/0 solar | 5959.3 | 298.43 | 0.7 | 0 |
2 | 0.19787/0 solar | 5959.3 | 298.83 | 0.7 | 0 |
3 | 12.858/14.379 solar | 1.56e+005 | 303.46 | 0.2 | 0.6 |
4 | 0.57946/0.51806 solar | 5959.3 | 300.24 | 0.7 | 0 |
5 | 0.78074/0.69285 solar | 5959.3 | 301.29 | 0.7 | 0 |
6 | 71.656/ 70.67 solar | 1.21e+005 | 303.73 | 0.94 | 0 |
合計 | 86.259/ 86.259 | 3.01e+005 | 303.27 |
>>>>部品 3 は太陽熱流束から 14.379 ワットを受けていますが、正味エネルギー増加量は 12.858 のみです。これは、この部品が約 1.5 ワットを周囲に対して失っていることを意味します。逆に、部品6の正味流入量は太陽から受け取ったものよりもわずかに多い結果となります。これは、周囲から追加の放射エネルギー受け取っていることを意味します。全太陽熱荷重 = 全輻射熱荷重であり、良好な放射エネルギーバランスが表示されている点に注目します。
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