熱動力は軸受内の摩擦損失から発生します。この動力は軸受の伝導熱と平衡になります。熱は軸受のハウジングの表面とシャフトを伝わって、周囲に移動します。この熱の移動は伝導と放射によって起こり、主に流動潤滑剤に伝わります。
発生した熱の大部分(見積もりでは 75 % 以上)は、軸受から潤滑剤を介して伝導されます。したがって、潤滑剤は軸受を流動する間に、入力温度により軸受出口の温度まで高められるのが普通です。軸受の熱平衡計算の作業は、軸受出口箇所の潤滑剤の平均温度を求めることを目的とします。この箇所では、選択した潤滑剤の摩擦による熱動力が、軸受から伝導した熱と平衡になります。
潤滑剤により軸受から伝わった熱の量は、潤滑剤の密度と粘度により異なります。潤滑剤の密度と粘度はいずれも温度変化だけにより顕著に変化するため、連続近似化方式により潤滑油の出口箇所の温度を求める必要があります。出口付近の潤滑油の予測温度を利用者が提示し、この温度に基づいて計算手順が反復されます。反復計算は、指定温度と計算温度の差が 2 ℃ 未満になった時点で終了します。差が大きい場合、潤滑油の粘度と潤滑層の荷重が大きく変化しているため、無視してもかまいません。
軸受の熱平衡に使用されるすべての計算式を、次に示します。
流体圧力による側面の油の流出
軸受のエッジが締め付けられていない場合、流体圧力により潤滑のクリアランスから潤滑剤が漏れ出します。漏れの量は次のように計算されます。
V z = 0.125 R * 1 ε d 3 φω 10 -3 [cm 3 s -1 ]
ここで、流出特性の数値 R * 1 は、軸受の相対幅、相対ジャーナル偏心、潤滑剤給油口の角度を表わしたダイアグラムから判断します。
給油口の圧力による油の流出
給油口に圧力がかかった状態で軸受に油が供給されると、それぞれの値により油の流出が増加します。放射(回転)スロットで給油される軸受について、給油口の圧力により流出する油の量は次の式で計算されます。
潤滑穴または潤滑軸溝から給油される軸受
循環油の量
真空層内の油の一部は、圧力層に戻り、循環状態で維持されます。その量は次の式で計算されます。
V z = 0.125 R * 2 ε d 3 φω 10 -3 [cm 3 s -1 ]
この量は、特性再循環の数値 R * 2 に依存し、この数値は軸受の相対幅と相対ジャーナル偏心に関するダイアグラムから判断します。
軸受に給油される潤滑剤の総量
潤滑剤の総量は、次の条件により判断します。
V = V z [cm 3 s -1 ]
V = V z + V u [cm 3 s -1 ]
V = V z + V p [cm 3 s -1 ]
V = V z + V p + u [cm 3 s -1 ]
スロットの真空箇所に充填
潤滑層の圧力箇所に広がる薄い油層の分離が始まり、同時に、軸受の溝が油から放出された空気と軸受のエッジから吸収された空気で満たされ、また油の蒸気で満たされます。真空箇所の薄い油層の蒸発が増加すると、摩擦損失が大きく低減します。荷重のないブッシュ部分を切り取るか、除去することで、薄い油層の分離が加速します。逆に次の 2 つの条件にあてはまる場合、潤滑剤の溝が完全に充填されます。
p o > 0.4 [MPa]
摩擦による損失は、この条件で最も大きくなります。
摩擦係数
潤滑溝の部分的な充填
μ = φΜ * 1 [-]
潤滑溝の完全な充填
μ = φΜ * 2 [-]
特性摩擦 M * 1 , M * 2 の値は、相対軸受幅と相対ジャーナル偏心に関するダイアグラムから判断します。
軸受の摩擦による動力損失
周囲から伝わる摩擦動力は、次の式で計算します。
P U = 3.5 π d L α W (T V - T U ) 10 -6 [W]
熱除去の係数は次の式で表されます。
α W = 12 + 8 ν V / 1.2 [W m -2 K -1 ] ただし ν V ≤ 1.2 m s -1
ν V ≤ 1.2 m s -1 の場合
軸受出口箇所の平均潤滑剤温度に対する潤滑剤の指定熱容量は、次の式で計算します。
c T = 4.588 T V - 5.024.10 -3 ρ 2 20 + 7.1156 ρ 20 - 619.646 [J kg -1 K -1 ]
軸受出口箇所の平均潤滑剤温度に対する潤滑剤の密度は、次のとおりです。
ρ T = ρ 20 - 0.65 (T - 20) [kg m -3 ]
給油口から出口までの潤滑剤の加熱量は、次の式で表されます。
軸受から伝わった相対熱を表す内部冷却の係数は、次のとおりです。
軸受出口箇所の潤滑油の平均計算温度は、次のとおりです。
T v = T o + ΔT [°C]
使用される変数の意味:
b k |
潤滑穴の直径または潤滑軸溝の長さ [mm] |
d |
ジャーナル直径 [mm] |
Δd |
直径のクリアランス [mm] |
F |
荷重 [N] |
L |
軸受幅 [mm] |
L f |
有効軸受幅 [mm] |
p 0 |
潤滑剤の給油圧力 [MPa] |
T U |
軸受周辺の温度 [°C] |
T V |
軸受出口の潤滑剤平均温度 [°C] |
T 0 |
潤滑剤の給油温度 [°C] |
v H |
軸受ジャーナルの円周速度[m s -1 ] |
v V |
気流の流れ速度[m s -1 ] |
α W |
熱除去係数[W m -2 K -1 ] |
ε |
相対ジャーナル偏心度 [-] |
η |
軸受出口における平均温度の潤滑剤動的粘度 [Pa s] |
ρ 20 |
温度 20 °C に対する潤滑剤密度[Kg m -3 ] |
χ |
内部冷却係数 [-] |
φ |
相対直径のクリアランス [mm] |
ω |
軸受ジャーナルの動圧効果による角速度[s -1 ] |