この応力解析は、反り解析で取得した変形成形品に基づいています。
この解析を"初期条件解析"と呼びます。この解析では、反り解析で得られた変形と収縮歪の両方を、応力解析の出発点として使用します。
これまでに説明した3 つのタイプの解析すべてで初期条件解析を使用できます。ここではまず、反り解析結果をどのように応力解析に受け渡すかを説明し、次に、中心となっている解析タイプに初期条件解析を組み合わせて使用する方法を紹介します。この解析タイプには、微小変形解析、座屈解析、大変形解析、および固有振動解析があります。
次のようにした場合、
次のように、反り解析への入力と、初期条件解析への入力を比較してみます。
反り解析
初期条件解析
ここで重要な点は、"反りによる残留応力"の処理に初期応力を使用していないことです。代わりに、 および
を使用して残留応力を処理します。応力解析のごく初期のステップでは、反り解析の最後のステップで得られた応力計算値が FENAS で効果的に複製されます。応力は必ず大変形解析の冒頭で計算されるので、この処理でオーバーヘッドは発生しません。
別の簡素化した方法として、次の反り形状
と初期応力 を初期条件応力解析に渡すという方法もあります。
ここで使用する方法は上記の方法です。この方法では、その前に説明した方法と同じ効果が得られますが、以下の利点があります。
形状データ()が変化しないので、どちらの解析でも歪について一貫した定義(歪 = 変形/長さ)を使用しています。これを説明するために、反った成形品には荷重をかけていません。ここで採用した方法で予測される応答はゼロです。つまり、成形品には動きが発生していません。初期応力の方法ではこのようにはならない。その理由は、歪の定義が変化していることから、この変化に対応するために、応力に"見かけ上の再配分"が発生するためである。
応力解析で弾性率を下げることで、反り解析で得られた残留応力を容易にスケールダウンできる。弾性率を小さくして応力解析に使用すると、反りによる残留応力の解放効果をラフにシミュレーションできる。また、荷重をかけた状態でのクリープを考慮することができる("実質的に線形な係数"を使用できる)。
たとえば、反りで E1=1600 MPa、E2=1200 MPa を使用し、外部荷重で E1=800 MPa、E2=600 MPa を使用する。この場合は、外部荷重解析の最初のステップを開始するときに計算に使用する応力を、反り解析の最後で出力される残留応力の半分とする。これにより、"低減した残留応力"を外部荷重解析に渡すことができる。初期応力の方法では、このような処理は容易ではない。
最終的な応力を得る際に、構造解析や反り解析で得た応力に初期応力を加算する必要がないので、後処理は簡易になる。
ここでは、それぞれのタイプの解析で初期条件解析を使用する際に注意する点についていくつか説明します。
座屈解析の実行では、微小変形解析を実行した後、座屈解析を実行するので、解析を 2 つ実行することになります。
通常は、線形(古典的)座屈法を使用します。初期微小変形解析を使用して、100% 荷重での成形品の形状を求めます。次に座屈解析で、0% 荷重での既知の形状および 100% 荷重での形状を使用します。この解析結果を後処理するときに、100% 荷重での変形形状のほか、座屈解析で得られたモード形状を確認します。
しかし、初期条件が存在する座屈解析では、荷重がかかっていない状態でも応力はゼロではないので、古典的な線形座屈理論は適用できません。したがって、この場合は"線形化座屈"法を使用する必要があります。この方法では、初期微小変形解析を使用して、全荷重に対してきわめて低い比率の微小荷重をかけたときの成形品の形状を求めます。次に線形化座屈解析で、荷重 0% での既知の形状と、微小荷重ステップの終了時点における形状を使用します。
線形の結果が必要な場合は、座屈解析のほか、微小変形解析を実行する必要があります。
座屈解析で得られるモード形状は増分モード形状 (座屈点における形状の変化分) なので、適切な倍率にした後、反り形状にこの増分形状を重ね合わせる必要があります。
大変形反り解析の結果を使用できるのは、反り応答の線形性が極めて高いことがわかっている場合、つまり座屈解析での固有値が極めて高い場合のみです。
固有振動解析でも、反り解析での初期条件を使用できます。座屈解析についての注意点と同様な注意点が、この場合にも該当します。
荷重をかけた成形品の応答に対して、反りによる応力が及ぼす影響は、安定している場合もあれば、不安定な場合もあります。たとえば、残留応力によって狭い表面に圧縮力が存在する場合、圧縮荷重をかけると、結果的に発生する応力が実質的に増加することになります。この場合、初期条件を考慮しない解析を実行すると、破断荷重の予測値が実際の値よりも大きめになります。
一方、反り応力によって生じている力が引張力である場合は、圧縮荷重をかけると残留応力との間で打ち消し効果が発生します。したがって、この場合は、初期条件を考慮しない解析では、実際の値よりも低い破断荷重予測値が得られることになります。
このソフトウェアの便利な特長として、かける荷重ではなく変位を初期条件解析で指定できることが挙げられます。これによって、反った成形品を既知の形状まで変形させるために必要な力を知ることができます。最終的に得られる結果では、その形状に成形品を変形させたときに生じる応力も示されます。
FENAS では、指定の変位境界条件が適用されているノードごとに、解析結果サマリー ファイルに"反力"が出力されます。
次の 2 つの例は、応力解析に基づいて初期条件解析を準備することが効果的な場合を示しています。
指定の変位による応力解析を使用して、反った成形品を変形した状態にしている。次に、さらに外部荷重を加えて成形品の反応を調べる。
成形品に外部荷重をかけている。次に、熱荷重を加えて成形品の反応を調べる。
ただし、このリリースでは、構造解析結果を、他の応力解析の初期条件として使用することはできません。これは次の理由によります。
反り解析では、拘束反応がゼロに近いので、その解析結果を応力解析の初期条件として使用できます。外部荷重をかけた応力解析では、拘束反応がどれもゼロではないので、これらの反応を次に実行する解析に受け渡す必要があります。これらの反応を受け渡さないと、特に拘束が移動する場合に、平衡の要件を満足できなくなることがあります。
このリリースでは、拘束反応を最初の解析から 2 番目の解析に受け渡す機能は用意されていません。このことから、応力解析プログラムでは、応力解析結果ファイルを初期条件として使用できないようになっています。