有限要素VS.有限体積

本項において前述した偏微分方程式は、コンピューターで解くことができる一連の代数方程式へと離散化または変換されなければなりません。この離散化は、数多くの手法によって行うことができます。最もよく利用される手法(利用可能な商用数値流体力学(CFD)コードの数に基づき)には、以下の3つの手法があります。

  1. 有限差分法
  2. 有限体積法
  3. 有限要素法

有限差分法では、微分項が級数展開法(通常は テイラー級数)と置換されます。通常、級数は第1項または第2項の後が切り捨てられます。含ませる項を増やせば増やすほど、計算はより正確になります。しかし、項が多ければ多いほど、計算は複雑化し、離散点または計算ノードの数が劇的に増加します。この方法は、規則的な形状のジオメトリには簡単に適用することができます。しかし、不規則的な形状のジオメトリに関しては、テイラー級数を適用する前に、方程式を変換する必要があります。この変換によって、方程式の余分なクロスカップリング、メッシュ生成、全体の収束などの点など、多くの問題が引き起こされます。

有限体積法では、従属変数(u、v、w、p、T)が区分直線近似により変化すると仮定し、支配方程式がボリュームまたはセルごとに積分されます。ここでも、区分直線近似の変化が精度と複雑さを決定します。これらの積分を用い、ボリューム同士の境界を越えて流束の基本的なバランスをとる必要があります。流束は計算領域の離散ノード間の中間点で計算されます。したがって、計算領域内の隣接する全ノード間で流束を計算する必要があります。トポロジー的に規則的なメッシュ(任意の1方向の分割数が同じ)において、この流束の計算は簡単です。不規則なメッシュ(自動生成された四面体メッシュなど)においては、この膨大な量の流束の計算に苦しみ、全てが適切に計算されているかを記録することも大変な作業になります。

有限要素法では、一般に重み付き残差法のガラーキン法が使用されます。この手法では、支配偏微分方程式が、重み関数によって乗じられ、要素またはボリュームごとに積分されます。従属変数は、重み関数と同じ形式の形状関数によって要素上で表現されます。形状関数には、幾通りかの形式が考えられます。Autodesk Simulation CFD は、2 次元 3 角形要素に対して流形要素、2 次元 4 角形要素に対してバイリニア要素、3 次元 4 面体要素に対して線形要素、3 次元 6 面体要素および 3 次元ピラミッドと 3 次元 6 面体要素の組み合わせに対してトリリニア要素を使用します。有限要素法は、代数方程式の項に物理現象を表現することが難しい数学的手法であり、そこが主に便利な点であると同時に不都合な点です。有限体積法においては常に流束を取り扱うが、有限要素法においてはそうではありません。ただし、ジオメトリに有限要素を適用するところは同じです。また、有限体積法について追加しなければならない境界条件は、離散化方程式の不可欠な部分です。

各手法の利点と欠点を下表にまとめます。

方法 長所 短所

有限要素法

1. 必要な計算が多い

2. 自然境界条件(流束)

3. マスター エレメント定式化

4. あらゆる形状のジオメトリを同じレベルでモデル化できる

1. 必要な計算が多く、物理現象の表現が少ない

有限体積法と有限差分法

1. 流束の物理現象の表現が正確

1. 不規則な形状のジオメトリに対する適用が困難

単純なジオメトリに関しては、これら3つの手法の計算マトリックスまたはディジタル表現は全く同様であることを示すことができます。3つの手法のいずれを使用しても、同じような組合せの、流体および伝熱に関する支配方程式の離散化方程式を作成できます。どの離散化法を使用する場合も、同じような流速-圧力のアルゴリズム(分離、練成、SIMPLE、SIMPLE-R など)を使用できます(Autodesk Simulation CFD の開発者は、有限要素法コードと有限体積法コードの両方で SIMPLE 改良型の使用に成功しています)。

Autodesk Simulation CFD では、あらゆるジオメトリ形状を柔軟にモデル化することができる有限要素法を主に利用しています。

流体の流れに関しては、特に気を付けなければならない点があります。本項において前述したように、5つの未知数(u、v、w、p、T)に対する5つの方程式が存在します。しかし、これらの方程式には、数値流体力学(CFD)に固有の問題が2つ存在します。

1つ目の問題は、支配方程式は連成されるだけでなく、非線形項、すなわち移流項または慣性項を持つということです。これらの項の処理については、少なくとも過去40年間の研究課題となっています。実際、Autodesk Simulation CFD では、移流項の離散化に使用する手法を常に再評価しています。これらの項が十分な精度でモデル化されなければ、「数値拡散」として知られる誤差が引き起こされます。その名が示す通り、その誤差によって、物理的な拡散を無効にし、現実の物理現象と異なる結果を導くことになります。高い精度の解を得る通常の手法(中央差分法、標準的なガラーキン法)によって移流項を表した場合、数値的な解は真の解の上下で振動し、数値的な拡散誤差を導くことになります。これらの拡散誤差によって、特に乱流の計算では、非常に簡単に解が発散する結果となります。ほとんどの有限体積法および有限要素法の商用ソフトウェアは、精度および安定性の妥協案である特別な方法を用いて、これらの項を離散化しています。有限体積法は、非対称上流化法やQUICK法などの手法を用います。成功している有限要素法は、流線上流法といった手法を用います。(この手法を用いない有限要素CFD法もあるが、一般的にそれらは利用に適していません)。Autodesk Simulation CFD は、流線上流離散化法の改良型を使用して移流項を表します。

支配偏微分方程式に関する2つ目の主な問題は、非圧縮性流体流れについて圧力に対する明示的な方程式が存在しないということです。例えば、Navier-Stokes方程式または運動量方程式を用いて流速を計算する場合、圧力の計算に利用できる方程式は連続方程式のみです。しかし、連続方程式に圧力は現われません。この問題は、これらの方程式をうまく組み合わせることによって回避しています。圧力方程式が存在しないジレンマを解決する方法として、有限体積法のために非常に優れた手法(少なくとも商業的に)が開発され、SIMPLE法またはその改良型として知られています。この手法は、Suhas V. Patankar著、Numerical Heat Transfer(Hemisphere Publishing, 1980, ISBN 0-89116-522-3)において詳しく説明されています。ほとんど全ての商用有限体積CFDコードと最もよく利用される有限要素CFDコードの2つがこの手法を用いています。ただし、有限要素法への利用は特別な応用例です。Autodesk Simulation CFD は、Patankar の著書で説明されている SIMPLE-R 法に基づいた圧力-流速アルゴリズムの改良型を使用しています。

初期の有限要素 CFD 法では高速な流れのモデル化が難しかったことは確かですが、Autodesk Simulation CFD は、有効性が実証された数多くの有限体積法の手法を有限要素の離散化に適用することによって、高速な乱流だけでなく、圧縮流れを非常に正確に予測する方法を実現しています。これは全て、重み付き残差法のガラーキン法を厳密に適用することによって成し遂げられています。したがって、Autodesk Simulation CFD では、有限要素の幾何学的な柔軟性が維持されています。

Autodesk Simulation CFD で使用されている手法に関する理論上の詳細については、Rita J Schnipke 著の博士論文『A Streamline Upwind Finite Element Method For Laminar And Turbulent Flow』(University of Virginia, 1986)を参照してください。この論文は、ミシガン州アナーバー、ユニバーシティ マイクロフィルム - www.umi.com で閲覧できます。