流体の流れが圧縮可能である場合、流体の密度は圧力とともに変化する。通常、圧縮性流れはマッハ数が約 0.3 を超える高速の流れである。例としては、翼または航空機のナセル上の流れなどの空気力学用アプリケーションの他、高性能バルブを通る流れなどの工業用アプリケーションがある。
非圧縮性流れには、このような密度の変化はない。圧縮性流れと非圧縮性流れの主な違いは、流れの流速である。マッハ0.3よりも遅い速度で移動する空気などの流体は、気体であるにもかかわらず非圧縮性であるとみなされる。また、コンプレッサを通る気体は、その流速がマッハ 0.3 を超えない限り、(熱力学的な意味で)圧縮性であるとみなされません。この点に注意することは重要です。これは、圧縮性流れとして実行される解析は実行が難しく、非圧縮性流れよりも多くの解析時間を要するためです。
Autodesk Simulation CFD では、亜音速圧縮性流れと完全圧縮性流れはマッハ数に基づいて区別されます。
亜音速圧縮性流れのマッハ数は、0.3 から 0.8 までの間です。圧力と密度の関係は弱く、流れ内の衝撃は計算されません。
圧縮性流れのマッハ数は、0.8 以上です。圧力は密度に強く影響し、衝撃が起きる場合もあります。圧縮性流れは遷音速(0.8 < M < 1.2)または超音速(1.2 < M < 3.0)のいずれかになります。超音速流れにおいて、圧力の影響は下流方向にのみ伝播される。上流の流れは、下流の状態や障害物による影響を受けない。
音速はaとして次式で与えられます。
ここで、=1.4は空気、R = ガス定数、T = 参照静温度(絶対温度)です。
この場合、流速Vは音速aとマッハ数Mの積です。
また、全温度Ttも重要なパラメータで、静温度と動温度の合計です。全温度を計算するには、次の2つの方法がある。
空気の場合、Cp = 1005 m2/(s2 K)
伝熱計算のない解析の場合は全温度を一定の値として指定し、伝熱計算のある解析の場合は全温度を境界条件として指定する必要があることに注意する。
全圧Ptも圧縮性解析を実行する場合に役立つ出力量である。全圧は、静圧と動圧の合計である。
流れが、形状的に収縮する領域を通過し音速まで加速される場合、流れはチョークした(閉塞した)と考えられる。チョークが発生した場合、圧力差が大きくなった場合(背圧が低下した場合)についても、縮流部を通過する増加質量が無い。スロートの下流側の流れは、その後増加し超音速となる。
基本的な解析方針
圧縮性流れ解析は、適用された境界条件と材料プロパティに対して非圧縮性解析よりも敏感である。適用された設定が現実的な流れの状態を定義しない場合、解析は不安定になり収束した解を得られない可能性がある。
このため、解析する流れの状態を理解しておくことを推奨する。境界条件と材料プロパティを正しく指定すると、解析に成功する機会が大幅に改善される。
新しい解析を開始する際にとても役立つ手法は、モデルを2次元で作成してすべての条件が正しいことを確実にすることである。2次元モデルを実行すると矛盾のある設定をすばやく見つけられるため、解析のデバッグをより迅速に行える。解析を正しく定義する設定を得られたら、この設定を(通常は)より大きな3次元(またはより詳細な2次元)モデルに適用する。このようにして、モデルに対する追加の調整はメッシュにのみ加えられ、基本的な設定に加える必要がないことを確実にする。
衝撃波のような物理的な要素を再現するため、臨界領域に対しては、極めて細かいメッシュ分割が必要とされる。メッシュは臨界領域以外では、少し粗くても良い。メッシュのサイズの変化のガイドラインとして、近傍の流体ボリュームで4倍以上のサイズとならないよう注意が必要である。一般に、粗いメッシュでは安定性が向上するが、精度が低くなる。このため、上述した試験的手順の一環として粗いメッシュで解析の設定を検証する場合もある。設定を確信できるようになったら、精度を改善するためにメッシュを細分割する。
密度の変化を許容するには、材料環境ダイアログを開き、可変を選択します。動作条件がデフォルトの値と異なる場合には、デザインスタディバーの材料ブランチを右クリックし、 環境参照を編集...を選択します。適切な静圧と静温度を指定します。密度の計算はこれらの値を用いて行われるため、ゲージ圧参照点を正しく得るためには環境圧力が正確である必要があります。
圧縮性解析に伝熱計算を含めるには、流入口に静温度ではなく全温度(澱点温度)境界条件を適用する。全温度は、既知の温度条件のあるすべてのソリッドまたは壁面にも適用するべきである。(静温度境界条件は、圧縮性解析で既知の温度を定義するために使用しない。壁面では静温度と全温度の値は同じであり、全温度として適用するべきである)。実行ダイアログで伝熱計算をオンに設定します。伝熱計算が有効である場合、計算ダイアログの全温度の値は無視されます。
圧縮性流体解析で伝熱計算を行う場合、粘性散逸、圧力作用、運動エネルギーの項が計算されることに注意する。伝熱計算を有効にする必要があるのは、伝熱計算またはマッハ数が3以上の流速を解決する場合、粘性散逸が重要である場合または非常に鮮明な衝撃を取り込む場合のみである。
全温度を正しく指定することは非常に重要である。収束計算数ゼロの計算を実行し、入口のマッハ数が予想どおりかどうかテストすることは良いアイディアである。予想どおりでない場合は、必要に応じて全温度境界条件と流入口境界条件を調整する。
伝熱計算が行われていない場合、実行ダイアログの全温度を指定する必要があります。全温度の方程式は前述した通りです。
絶対という用語は圧力とあわせて使用されます。通常、圧力方程式に対する解は、相対圧力です。この相対圧力は、重力ヘッドや回転ヘッド、参照圧力を含みません。相対圧力は、運動量方程式において、直接流速の影響を受ける圧力です。絶対圧力は、圧力方程式により計算された圧力に、重力ヘッド・回転ヘッド・参照圧力を追加します。相対圧力をPrelとすると、絶対圧力は次の式によって与えられます。
ここで、添え字 ref は参考文献の値を意味し、添え字 i は 3 つの座標方向を意味し、g は重力加速度、 は回転速度です。参照圧力と参照温度を使用して、解析の最初に参照密度が計算されます。密度が一定の流れについて、参照密度は一定の値です。重力ヘッドまたは回転ヘッドを持たない流れについては、相対圧力はゲージ圧です。
動的および静的という用語は、通常、圧縮性流体について使用されます。動的な値は、運動エネルギーなどの項です。
動温度を計算するために使用される比熱は、プロパティウィンドウ上で入力された温度の値ではなく、次の式によって与えられる機械的な値であることに注意が必要です。
ここで、 は定積比熱に対する定圧比熱の比、Rgas は使用する気体のガス定数です。
静温度は、エネルギー方程式を解いて決定されます。断熱的なプロパティについては、静温度を決定するために使用されるエネルギー方程式が、一定の全温度方程式となります。したがって、静温度は、全温度またはよどみ点温度から動温度をさしひいた温度です。
静圧力は、前述の絶対圧力です。全温度は、静温度と動温度の合計です。全圧力は、静圧力と動圧力の合計です。
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