Abaqus/Explicit 解析に関する特別の考慮事項

Abaqus/Explicit を使用した解析に関する追加の詳細情報を表示します。

前述のとおり、Helius PFA は Abaqus/Standard および Abaqus/Explicit 両方に対して互換性があります。一般に、Abaqus/Explicit の特定の要件は Abaqus/Standard と同じです。ただし、Abaqus/Explicit のみに固有の面があり、Abaqus/Explicit でサポートされていない Helius PFA の機能がいくつかあります。これらの面と制限事項の多くは、既に説明されていますが、ここではそれらを要約して詳細まで説明します。

実行

Abaqus/Explicit を使用した解析は、Abaqus/Standard を使用した解析と同じ方法で実行されます。Abaqus を使用した Helius PFA の実行の詳細については、「イントールと操作ガイド」を参照してください。注意すべき違いは、Abaqus/Explicit では数値計算で使用する精度(単精度または倍精度)を選択できる点です。現在のところ、Helius PFA は倍精度のみをサポートしています。既定の方法は単精度であるため、倍精度のオプションは指定する必要があります。コマンド ラインからジョブを送信する場合は、倍精度の解析を指定するには、'double=both' または '-double both' オプションを使用できます。例:

abaqus job=explicit_job double=both

Abaqus/CAE 内から解析を送信する場合、倍精度は[Edit Job]ダイアログ ボックスの[Precision]タブで選択できます。次に示すように、Abaqus/Explicit の[Precision]ドロップダウン メニューにある[Double - analysis + packager]オプションを選択します。また、このオプションは Abaqus 環境ファイル(abaqus_v6.env)で double_precision 変数を BOTH の値に設定すると恒久的に設定できます。

最後に、Abaqus/Explicit 用の Helius PFA は、Windows と Linux の両方で MPI に基づく並列実行方法のみをサポートしています。スレッド並列方法はサポートされていません。

材料定義の違い

一般に、Abaqus/Explicit 用の Helius PFA の材料定義は Abaqus/Standard と同じです。次は例外の一覧です。

  • 材料の密度を指定する必要があります。入力ファイルの場合、これは *DENSITY キーワードによって実行できます。Abaqus/CAE 内では、[Edit Material]ダイアログ ボックスの[General] > [Density]を選択することで実行できます。
  • 必要な状態依存変数の数は、Abaqus/Standard 解析に必要な数を基準に 6 ずつ増加します。正確な値を決定するには、「複合材料の MCT 状態変数出力を要求」セクションのフローチャートを参照してください。
  • 要素の削除が必要な場合は、*DEPVAR キーワード上の DELETE パラメータの値を 1 に設定する必要があります。Abaqus/CAE 内では、[Edit Material]ダイアログ ボックスで Depvar Material Behavior の要素の削除をコントロールする変数を変更することで設定できます。
  • 特定の解析機能がサポートされていません(下記を参照)。
  • 陽解法に固有で定義が可能な追加の材料定数があります(下記を参照)。

サポートされない解析機能

次の材料オプションは、Abaqus/Explicit 解析の Helius PFA 材料でサポートされていません。

  • Helius PFA 粘性材料
  • 一方向複合材料の母材フェーズの縦方向せん断非線形性(ユーザ材料定数 #4)
  • 一方向複合材料の静水圧縮荷重からの材料強化(ユーザ材料定数 #6)
  • 熱残留応力計算(HIN ファイル内の *CURE STRESS キーワード)
  • 構成応力とひずみの出力
  • 損傷の許容値(「複合材料のモデル損傷許容値」を参照してください。

Explicit に固有な材料定数

Abaqus/Explicit 解析の Helius PFA 材料に固有な 3 つのユーザ材料定数(UMC)があります。

  • 材料の劣化時間: UMC #11
  • 母材ひずみ速度強化パラメータ: UMC #17
  • 繊維ひずみ速度強化パラメータ: UMC #18

要素の削除

必要に応じて、複合材料の最終的な破損後に積分点を削除できます。1 つの要素内のすべての積分点に削除フラグを設定すると、その要素は完全に解析から除去されます。材料の要素削除をオンにするには、*DEPVAR キーワードの DELETE パラメータに 1 の値を設定します。例:

*MATERIAL, NAME=IM7_8552
*USER MATERIAL, CONSTANTS=3
1, 1, 1
*DEPVAR, DELETE=1
12

繊維破損が完了すると、積分点には必ず削除フラグが設定されます。完了とは繊維破損が開始し、材料の劣化時間中に、材料が繊維破損状態にまで完全に線形劣化したことを意味します(「付録 A10」の図を参照してください)。織物複合材料では、いずれかのけん引の繊維破損が、他方のけん引の破損状態に関係なく要素の削除を引き起こします。

SDV1

SDV1 の値(損傷変数)は、Abaqus/Explicit の解析では動作が異なります。繊維破損イベントの後、UMC #11 で指定された一定の劣化時間を経過して、積分点の剛性がゼロまで減少します。劣化の完了後、SDV1 の値が 3.0 から 0.0 に変化します。

SDV1 の値 個別の複合材料損傷状態
1.0 損傷なしの母材、損傷なしの繊維
2.0 破損した母材、損傷なしの繊維
3.0 破損した母材、破損した繊維
0.0 繊維破損後、劣化時間が経過した後、要素の剛性がゼロまで減少