仕様制限温度以下の構成部品動作を保証することは、エレクトロニクス産業における大きな課題の1つです。デバイスの消費電力が増加する一方で、サイズの縮小が求められる厳しい今日においては、この課題がますます大きくなりつつあります。構成部品の消費電力が増加し、パッケージのサイズが小さくなると、十分な冷却を確保するための設計の重要度が大きくなる一方で、その難易度は高くなります。Autodesk Simulation CFD を設計プロセスにおける早期の段階で利用し、設計の一部として流れの詳細な解析を取り入れることにより、このような課題の多くに効率的に対処できます。
このトピックでは、電子機器に対するシステムレベルの熱シミュレーションのためのベストプラクティスを多数説明していきます。最初にシステムレベル アプリケーションに対して、その設計基準に応じ適用が可能な戦略や目的について説明します。アプリケーションに基づく分類システムが提示され、特定アプリケーションが属するカテゴリの特定を支援します。最後に、それぞれのカテゴリに対するベストプラクティスが提示されます。
これらのテクニックは Autodesk Simulation CFD のアプリケーション エンジニアが開発し、さまざまな種類の電子機器アプリケーションに適用されています。その内容は大部分のアプリケーションに適用可能なものですが、カスタマイズが必要となる状況もあります。
これらのテクニックは非常に保守的であるため、わずかな修正により、より迅速な収束を達成できる場合もあります。これらは特定アプリケーションでの実績に基づくものであるため、最も効率的なプロセスで結果の達成が図れるように、可能な限りの最適化を自由に行ってください。
電子機器解析において、その対象となるジオメトリは構成部品、基板、およびシステムの3種類に大きく分類できます。それぞれのジオメトリに対する目的と解析戦略は、次のように異なります:
構成部品
Autodesk Simulation CFD は、小規模システムにおける構成部品レベルの解析に非常に適しています。
Autodesk Simulation CFD の一般的なユーザである多くの機械設計エンジニアや製品設計エンジニアの目的は、既製構成部品の熱性能を把握する点にあります。一般的な戦略では、部品を小規模な空気ボリューム内に収めて、小規模なシステムとして解析を実行します。そのような小規模なシステムレベルの解析に対しては、以下で説明するテクニックが適用可能です。
多くの電子部品には、十分な冷却のために必要とされる空気の流速を指定した仕様が存在します。構成部品レベルの解析には、システムの簡略化されたバージョンを用い、それらの構成部品上を流れる空気の速度を特定できる強力なアプリケーションを使用する必要があります。一般的なプロセスを説明します:
基板
多くの基板レベルシステムにおける目的は、ジュール加熱(または電位差)に起因するPCB内の温度上昇を確かめることにあります。これには配線のモデル化を必要としますが、配線レイアウトのCADモデルは通常存在しないため難しいプロセスとなります。一般的なプロセスでは、ECAD のモデルを Autodesk Simulation CFD の解析用 CAD モデルに移行します。一般的に電子機器関連のエンジニアが最も重要視するのがこの種類の解析です。
もう1つの目的としては、構成部品を用いた、個々の基板の熱性能のキャラクタライズが挙げられます。基板はスロットの幅を持つ空気ボリューム内にモデル化されます。これは小規模なシステム解析となりますが、基板や構成部品の詳細度については、後述する大規模システム解析における詳細度を一般的に上回ります。そのような小規模なシステムレベルの解析については、次に説明するテクニックを適用できます。これらの解析の結果は、より大規模なシステム解析における構成部品のサブモデルとして利用できます。
システム
システムレベルのアプリケーションには、筐体内で組み立てられた複数の構成部品が含まれます。その構成は様々で、含まれる構成部品の個数も少数のものから、数百にいたるものまで考えられます。システムは、そのアプリケーションにより、完全に密閉されている場合もあれば、多数の通気孔を含んでいる場合もあります。大部分のシステムにおける空気の移動は、浮力または電気ファン等の強制装置により生じます。これはジオメトリ構成やアプリケーション関わらず、構成部品の温度がそれらの持つ制限を超えないことを確かめることが、システムレベル解析における第一の目的となります。このゴールを達成するために、いくつもの目標と設計戦略が様々な業界で設定されています。
あらゆる電子機器解析を開始する前には、このセクションで説明されるアイテムを評価することで、適切なアプローチを決定する必要があります。ジオメトリやモデル化における各種の条件は目的とする結果に大きく影響を受けるため、解析を開始する前には、その目的の十分な考慮と理解が重要となります。次に考慮すべき点として、設計プロセスにおける解析の実施時期が挙げられます。早期の解析では、設計レベルのジオメトリを使用する必要があります。設計レベルのジオメトリは、モデルが比較的簡単で解析結果に応じた設計変更も容易であるため、製造レベルのジオメトリよりも解析に適しています。
多くの電子機器システムに有効なモデリング戦略は1つではありません。これらのテクニックはすべて、装置の流れと熱特性を損なうことのないよう、ジオメトリの複雑性を軽減するものです。
すべてのシステムレベル解析において、以下の問題を考慮してください:
システムレベルの目的は様々なものがあります。これらを理解することは重要であり、これらが解析プロセスの指針となります。目的としては次のようなものがあります:
多数の部品を含む複雑なシステムを解析するのに有効な戦略は、全体のシステムモデル内にサブモジュール表現を使用することです。細かなジオメトリを大量に含む、または複数インスタンスのサブモジュールはこのアプローチの主要な適用候補となります。モジュールの例としては、大きなラックの中の2枚の基板間のチャネルがあります。これを利用するメリットは、システムモジュール内の詳細度が大きく軽減され、解析時間の短縮と設計効率の向上が可能なことです。
これらの表現は、個別のより小規模な解析によりこれらの性能をキャラクタライズすることから作成します。計算された流れおよび熱挙動をジオメトリ的に簡略化されたモジュールの表現に適用します。このプロセスをまとめると次のようになります:
初期のアプローチとしては、外部環境を完全にモデリングする前に、解析の一部の物理効果を近似することにより設計を絞り込むことが適切です。
これには、まず装置の内部をモデル化し、装置の外部サーフェス上に熱伝達率境界条件を適用して外部流れをシミュレートします。これにより装置を取り巻く流れの計算を省き、完全な外部ドメイン解析よりも格段に高速に結果を得ることができます。結果としての温度分布はそれほど正確ではありませんが、問題を引き起こす設計要素の判定につながるケースが多くあります。よりよい設計案ができた後、周囲の空気環境を使ったより詳細な解析アプローチを用いて正確な温度場を計算します。
外部サーフェスに推奨される熱伝導率は5 W/m2K ~ 20 W/m2Kです。前の値は動きがほとんどあるいは全く無い静止した空気をシミュレートするものです。後者は、高温の場合に多い、より活発な空気の流れを表現するのに使用します。どちらの値を使用するかを決定するのは難しいですが、同じ値をすべての設計代替案に対して使用し、一貫した結果を得ることの方がはるかに重要です。
強制対流(ファン)
受動冷却