エネルギー解析用モデル内のスペースは、熱損失や熱取得が発生する空気の個別の体積(質量)です。
こうした熱量の変化は、収容人員、照明、設備、HVAC などの内部プロセスだけでなく、他のスペースや外部環境との熱交換もその原因になります。スペースの役割は、内外の熱交換の変遷を建物全体で正確に捉えることにあります。
スペースは、建物内の部屋と同じようなものとして考えることができます。部屋とスペースとの間には直接的な関係が存在する場合が多くありますが、すべてのケースにおいて明確な関係が存在するわけではありません。たとえば、仕切りがないオープン プラン オフィスやアトリウムなどの大規模な部屋の場合は、熱伝達プロセスをより正確に表現するために、部屋を細分化しなければならないことがあります。こうした方法は、サーマル ゾーニング、チャンキング、またはブロッキングと呼ばれます。これらの概念は、すべて、熱シミュレーション向けに建物内で個別スペースを作成することに関係しています。
建物内の個別スペースの作成について理解するために、ここからは、理論上のシンプルな建物を図示しながら説明していきます。
理論上の建物の断面図
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この断面図が建物の広がりを示していると仮定すると、いくつのスペースに分割すればよいでしょうか。次の各ケースについて考えてみましょう。 |
スペースを分割せず、1 つの大きなスペースとして扱う
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建物が個別のスペースに分割されないときは、すべての熱損失と熱取得が 1 つのスペースに集約されます。この場合、建物内で発生する物理現象を正確に再現することはできません。
たとえば、ある特定の時点において、北側の屋根で大きな熱損失が発生し、南側の屋根で大きな熱取得が発生したと仮定します。この場合、この大きな 1 つのスペースでは、熱取得と熱損失の全体的な総計という現象しか発生していないことになります。しかし実際には、局所的な加熱と冷却により、局所的な熱損失と熱取得が発生するでしょう。 そのため、このケースのシミュレーション結果では、実際に必要とされる加熱と冷却の量が過小評価される可能性があります。 |
スペースをレベル別に分割する
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ここでは、建物内のスペースをレベル別に分割するケースを考えてみます。
この方法を使用すると、各スペースのシミュレーションの精度が向上します。この方法は、たとえば、加熱と冷却の手段がない小屋裏などに有効です。ただし、この方法においても、エネルギー シミュレーションで同時に発生する熱取得と熱損失を十分に区別できないという問題が残ります。 |
スペースを部屋別に分割する
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サンプルの建物を個別のスペースに分割する場合、最もわかりやすいのは部屋別に分割する方法です。
建物の断面図を確認すると、同時に発生する熱取得と熱損失をエネルギー シミュレーションで区別するための十分な数のスペースがあることがわかります。そのため、建物全体で快適な温度を保つために必要なエネルギー量をより正確に判断することができます。 ただし、大規模な照明設備を使用する劇場空間などでは、大量の熱取得が局所的に発生する可能性があります。このような部屋の場合、スペース全体で熱が均一に配分されることはありません。こうしたケースでは、スペースをさらに分割することをお勧めします。 |
スペースを部屋別に分割するだけでなく、さらに奥行きや高さを使用してスペースを分割することもできます。この方法により、ゾーニング、ブロッキング、チャンキングなどの特定のエネルギー解析用モデル作成方式に対応できます。
部屋と奥行きを使用して 9 つのスペースに分割する
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奥行きを基準としてスペースを分割することは、一般的に行われています。この方法は、建物内部のレイアウト、部屋、ゾーンがまだ定義されていないコンセプト設計の段階に役立ちます。
エネルギー モデリングの資料「ASHRAE 90.1 Appendix G (LEED)」には、方位とペリメータ ゾーンの奥行きを使用して個別のスペースを作成するサーマル ゾーニングの規則が記載されています。たとえば次の平面図では、この ASHRAE のガイドラインに従い、奥行きを基準としてスペースを分割しています。 ![]() Revit でこの方法を使用してスペースを分割するには、[エネルギー設定]ダイアログの[ペリメータ ゾーンの区分]オプションと[ペリメータ ゾーンの奥行き]オプションを使用します。 |
部屋と高さを使用して 9 つのスペースに分割する
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高さを基準としてスペースを分割することは、あまり一般的ではありません。ただし、人間がスペースの底部に集まるアトリウムなど、高い吹き抜けがあるような部屋のシミュレーションを行う場合は、高さを基準としてスペースを分割すると便利です。
また、この方法を使用することにより、床下空気分配システムによる空気の階層化効果や、劇場の照明設備などによる熱取得と熱損失について、より正確に評価することができます。 |
個別スペースの作成時には、1 つのスペース内に複数の部屋を作成することができます。この方法は、ゾーニング、ブロッキング、またはチャンキングと呼ばれることがあります。
部屋の向き、奥行き、機能が同じ場合は、複数の部屋を結合して 1 つのスペースを作成することができます。たとえば次の図は、建物内の同じ階に並んだ一連の小さなオフィスを表しています。各部屋に対して個別のスペースを使用することも(左側)、複数の部屋を結合して 1 つのスペースにすることもできます(右側)。
3 つの部屋に対して 3 つのスペース | 3 つの部屋に対して 1 つのスペース |
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この方法を使用すると、シミュレーションを効率的に実行できる場合があります。ただし、クラウド シミュレーションと組み合わせることによってスペースの自動作成処理が効率化されているため、この方法の重要性は低くなっています。
部屋の上部に天井裏空間を作成する場合も、上で説明したような事項を検討する必要があります。天井裏空間の高さが大きい場合や、天井裏空間を吸気プレナムまたは排気プレナムとして使用する場合は、天井裏空間を個別のスペースとしてモデル化します。この処理は、HVAC システムの詳細設計の段階で行います。
天井裏空間をスペースに結合します。 | 天井裏空間に対して個別のスペースを使用します。 |
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複数の方法を使用して、エネルギー解析用モデル内の垂直方向のボイドを処理できます。
複数のボイドを結合して 1 つのスペースを作成します。 |
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ボイドに対して個別のスペースを使用します。 |
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垂直方向のボイドに対してスペースを省略します。 |
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スペースの面積とは、そのスペースの床面積のことです。スペースの面積は、収容人員、照明、設備が原因で内部的な熱取得と電力消費が発生する床面積に関係しています。
これらのプロセスは床面積を単位として指定されることが多いため、スペースの面積を正確に定義することが重要です。特に初期設計の段階では、きわめて重要です。ただし、スペースは、他の要因によって決定される相対的な要素でもあります。特に、実際のエネルギー使用量に影響する前提条件には、建物の運用スケジュールなど、さまざまなものがあります。
スペースが、熱損失と熱取得が発生する個別の空気塊だとすれば、スペースの容積は、そのスペース内の空気の質量を表すものです。
通常、スペースの容積は空気の形状として説明されます。ただし、エネルギー シミュレーション エンジンで実際の空気の形状が考慮されることはありません。代わりに、スペースの容積は、単純に個別の空気塊として処理されます。
空気は密度が低く、比熱容量も小さいため、通常は、スペースの容積がエネルギー シミュレーションの結果に大きく影響することはありません。そのため、スペースの容積を非常に厳密に定義しなくても、エネルギー解析で適切な結果を得ることができます。