ラジオシティによるグローバル イルミネーションのモデリング

ラジオシティは、ある環境において光が相互作用する様子を現実的にシミュレートするレンダリング技術です。

この項では、ラジオシティの概要、およびこのグローバル イルミネーション技法と 3ds Max で利用できる他のレンダリング技法との関連について説明します。この情報は、実行するビジュアル化タスクに最も適した技法を決定する際に役立ちます。シーンの中の照明をより正確にシミュレートするため、ラジオシティには標準ライトと比べて次のような利点があります。

コンピュータ グラフィックス レンダリング

3ds Max で作成される 3D モデルには、3D デカルト座標系との関係で定義されるジオメトリ データが含まれます。これをワールド空間といいます。また、モデルにはシーン内の各オブジェクトのマテリアルおよび照明に関するその他の情報も含まれます。コンピュータのモニタに表示されるイメージは、ピクセルと呼ばれる、多数の発光する点で構成されます。ジオメトリ モデルのコンピュータ グラフィックス イメージは、モデル情報と特定のビューポイント(カメラ)に基づいて各ピクセルの色を決定することで作成されます。

モデル内のサーフェス上のポイントの色は、そのサーフェスの物質的なマテリアルのプロパティ、およびそれを照らすライトの関数です。一般的な 2 つのシェーディング アルゴリズム、つまりローカル イルミネーションとグローバル イルミネーションを使って、サーフェスがどのように光を反射し透過させるのかを表現します。

ローカル イルミネーション

ローカル イルミネーション アルゴリズムは、個々のサーフェスがどのようにライトを反射、または通すかだけを表します。サーフェスに到達するライトの説明により、3ds Max のシェーダと呼ばれるこれらの数学アルゴリズムは、そのサーフェスから放たれるライトの強度、カラー、および分配を予測します。マテリアルの定義とともに、さまざまなシェーダにより、たとえば、サーフェスがプラスチックのように、あるいは金属のように表示されるか、滑らかに表示されるか粗く表示されるかが決まります。3ds Max の強力なインタフェースにより、さまざまなサーフェス マテリアルを幅広く定義することができます。

個々のサーフェスがローカル レベルでどのようにライトと相互作用するかを定義したら、次にサーフェスに到達するライトの光源を決定します。3ds Max の標準スキャンライン レンダリング システムでは、光源自体から直接入ってくるライトのみがシェーディングで考慮されます。

より正確なイメージの場合は、光源だけでなく、環境におけるすべてのサーフェスおよびオブジェクトがどのようにライトと相互作用するかを考慮する必要があります。たとえば、サーフェスの中には、ライトを遮断して他のサーフェスにシャドウを投影するもの、輝いているため他のサーフェスの反射が表示されるもの、透明で他のサーフェスが透けて見えるもの、他のサーフェスにライトを反射するものがあります。

グローバル イルミネーション

モデル内のサーフェス間でライトが変換される方法を考慮に入れるレンダリング アルゴリズムを、グローバル イルミネーション アルゴリズムと呼びます。 3ds Max には、プロダクション レンダリング システムの不可欠な要素として、レイトレーシングとラジオシティという 2 つのグローバル イルミネーション アルゴリズムが用意されています。

レイトレーシングとラジオシティの機能について学ぶ前に、ライトが実世界でどのように分配されるかを理解しておくと役に立ちます。たとえば、次の図に示す部屋について考えます。

2 つのライトで照らされた台所

この台所には 2 つの光源があります。ライトをフォトンと呼ばれる個々のパーティクルとして考えると、台所のサーフェスに衝突するまでフォトンは光源から移動します。サーフェスのマテリアルに応じて、これらのフォトンの一部は吸収され、その他のフォトンは環境内で分散されます。特定の波長で移動するフォトンが吸収されたり、吸収されなかったりすることにより、サーフェスのカラーが決定されます。

非常に滑らかなサーフェスは、フォトンがサーフェスに到達するときと同じ角度(入射角)で、1 つの方向にフォトンを反射します。これらのサーフェスは鏡面反射サーフェスと呼ばれ、この種の反射は鏡面反射と呼ばれます。鏡は完全な鏡面反射サーフェスの例です。もちろん、多くのマテリアルには鏡面反射と拡散反射の両方がある程度見られます。

左: 鏡面反射

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右: 拡散反射

フォトンがどのようにサーフェスから反射されるかは、主としてサーフェスの滑らかさに依存します。粗いサーフェスはすべての方向にフォトンを反射する傾向があります。これらは拡散反射サーフェスと呼ばれ、この種の反射は拡散反射と呼ばれます(上の図を参照)。つやなしのペンキで塗られた壁は、拡散反射サーフェスの良い例です。

台所の最終的な照明は、サーフェスと光源から放出される無数のフォトンとの相互作用によって決まります。サーフェス上のどのポイントにも、フォトンは光源から直接到達したり(直接照明)、他のサーフェスに当たって跳ね返ることで間接的に到達することができます(間接照明)。台所に立っていると、室内のごく少数のフォトンが目に入り、網膜の桿体と錐体が刺激されます。この刺激により、脳に認識されるイメージが形成されます。

コンピュータ グラフィックスでは、網膜の桿体と錐体をコンピュータ画面のピクセルに置き換えます。グローバル イルミネーション アルゴリズムの目的として、現実の環境で見えるものをできるだけ正確に再現することが挙げられます。このタスクをできるだけ速く、理想的にはリアルタイム(1 秒当たり 30 イメージ)で完了することも目的の 1 つです。現時点では、1 つのグローバル イルミネーションでこれらの 2 つの目的を達成することはできません。

レイトレース

最初に開発されたグローバル イルミネーション アルゴリズムの 1 つとして、レイトレースが知られています。レイトレース アルゴリズムでは、部屋中を無数のフォトンが移動しても、第一に注意するフォトンは目に入ってくるフォトンであることを認識します。このアルゴリズムは、画面上の各ピクセルから 3D モデルに、光線を逆方向にトレースすることで機能します。この方法では、イメージの作成に必要な情報のみを計算します。レイトレースを使用してイメージを作成するには、コンピュータの画面上の各ピクセルに対して次の手順を実行します。

  1. フォトンは、サーフェスと交差するまで、目の位置からモニタ上のピクセルを通じてトレースされます。マテリアルの説明からサーフェスの反射はわかりますが、そのサーフェスに到達するライトの量についてはまだわかりません。
  2. 全体の照明を決定するため、交差点から環境内の各光源まで光線をトレースします(シャドウ レイ)。光源への光線が他のオブジェクトによって遮断されない場合は、その光源からのライトの影響がサーフェスのカラーの計算に使用されます。
  3. 交差するサーフェスが輝いているか、透明な場合は、処理するサーフェス内またはサーフェスを通して見えるものを決定する必要もあります。別のサーフェスに衝突するまで、反射する方向(透明の場合は透過する方向)に手順 1 および 2 を繰り返します。後続の交差点のカラーは元のポイントを考慮に入れて計算されます。
  4. 2 番目のサーフェスにも反射性または透過性がある場合は、最大反復数に達するまで、または交差するサーフェスがなくなるまでレイトレース処理が繰り返されます。

    レイトレース: 光線は、ピクセルを通じてカメラからジオメトリまでトレースされ、次に光源まで戻ってトレースされます。

レイトレース アルゴリズムは、広範囲にわたってライト効果をモデリングできるため、多目的に使用できます。レイトレースでは、直接照明、シャドウ、鏡面反射(鏡など)、および透明なマテリアルを通過する屈折のグローバル照明特性を正確に考慮できます。レイトレースの主な欠点は、環境の複雑さが適度な場合でも、処理速度が非常に遅くなる可能性があることです。3ds Max では、レイトレースは、レイトレースをシェーディング オプションとしてレイトレース マテリアルが指定されているオブジェクトに対して、選択的に使用されます。光源に対して、投射するシャドウをレンダリングする方法としてレイトレースを指定することもできます。

レイトレースとスキャンライン レンダリングの大きな欠点は、これらの技法ではグローバル イルミネーションの重要な特性である拡散相互反射が考慮されないことです。従来のレイトレースおよびスキャンライン レンダリングでは、光源自体から直接到達するライトのみが正確に考慮されます。ただし、部屋の例で示したように、ライトは光源からサーフェスに到達する(直接照明)だけでなく、他のサーフェスからも到達します(間接照明)。たとえば、台所のイメージをレイトレースする場合、光源から直接ライトを受けないため、シャドウの領域は黒で表示されます。ただし、周囲の壁および床から受けるライトがあるため、これらの領域が完全な暗闇にはならないことはわかります。

スキャンライン レンダリングおよび従来のレイトレース(V5 より前のバージョンの 3ds Max)において、通常、この間接光は間接光の物理的現象と相関関係がなく、スペース全体に任意の周囲光の値を単純に追加することで考慮されます。このため、特に大部分が拡散サーフェスで構成される建築環境のレンダリングの場合、スキャンラインおよびレイトレースされたイメージは、非常に平らに見えます。

ラジオシティ

この問題を解決するため、熱光学研究に注目した、従来とは異なるグローバル イルミネーションの計算方法についての研究が開始されました。1960 年代の初期に、炉やエンジンなどの装置でどのように設計が実行されるかを確認するため、サーフェス間の放熱移動をシミュレートする方法が、技術者によって開発されました。1980 年代の中頃、コンピュータ グラフィックス研究者は、ライトの伝播をシミュレートするため、これらの技法の応用を研究し始めました。

コンピュータ グラフィックスの世界でラジオシティと呼ばれるこの技法は、レイトレースとは根本的に異なります。ラジオシティでは、画面上の各ピクセルのカラーを決定するのではなく、環境内のすべてのサーフェスの強度を計算します。これは、最初に元のサーフェスを「要素」と呼ばれる小さなサーフェスのメッシュに分割することで、実現されます。ラジオシティ アルゴリズムは、各メッシュ要素から他のすべてのメッシュ要素に分配されるライトの量を計算します。最終的なラジオシティの値は、メッシュの要素ごとに保存されます。

ラジオシティ: サーフェスに衝突するライトの光線は、複数の拡散光線によって反射されます。拡散光線自体も他のサーフェスを照らすことができます。サーフェスは、計算の精度を高めるために再分割されます。

ラジオシティ アルゴリズムの初期バージョンでは、画面に有効な結果を表示する前に、メッシュ要素間のライトの分配を完全に計算する必要がありました。結果がビュー独立であるにもかかわらず、前処理にかなりの時間がかかりました。1988 年、斬新な改良が発明されました。この技法は、早期の視覚結果を表示します。この結果を使用して精度および視覚品質を徐々に改善できます。1999 年、確率緩和ラジオシティ(SRR)と呼ばれる技法が発明されました。SRR アルゴリズムは、Autodesk が提供する商用ラジオシティ システムの基礎を形成しています。

統合ソリューション

レイトレース アルゴリズムとラジオシティ アルゴリズムにはかなりの違いがありますが、さまざまな形で補完し合っています。それぞれの技法には利点と欠点があります。

ライト アルゴリズム 利点 欠点
レイトレース 直接照明、シャドウ、鏡面反射、および透明効果を正確にレンダリングすることができます。

メモリの利用効率が高いです。

計算上不経済です。イメージの生成に必要な時間が、光源の数に大きく影響を受けます。

ビューごとに処理を繰り返す必要があります(ビュー従属)。

拡散相互反射を考慮しません。

ラジオシティ サーフェス間の拡散相互反射を計算します。

任意のビューの高速表示するためのビュー独立ソリューションを提供します。

早期の視覚結果を提供します。

3D メッシュは、元のサーフェスよりも多くのメモリを必要とします。

サーフェス サンプリング アルゴリズムは、レイトレースに比べ、イメージ生成時のアーティファクトの影響を受けやすくなっています。

拡散反射および透明効果を考慮しません。

ラジオシティ、レイトレースのいずれもすべてのグローバル イルミネーションの効果をシミュレートするための完全なソリューションを提供しません。ラジオシティは拡散対拡散の相互反射のレンダリングに優れており、レイトレースは鏡面反射のレンダリングに優れています。両方の技法を高品質のスキャンライン レンダリング システムと統合することにより、3ds Max は両方の世界に最高のソリューションを提供します。ラジオシティ ソリューションを作成した後、その 2 次元ビューをレンダリングできます。3ds Max のシーンでは、レイトレースによりラジオシティの効果が補強されます。ライトはレイトレース シャドウを生成し、マテリアルはレイトレースされた反射と屈折を生成します。レンダリングされたシーンでは、両方の技法を組み合わせることにより、いずれかの技法のみを使用した場合よりもさらに現実的な効果が生まれます。

レイトレースとラジオシティを統合することにより、3ds Max では、高速でインタラクティブなライトの研究から、格別な品質と現実性を兼ね備えたイメージにいたるまで、ビジュアル化の範囲を最大限に広げることができます。